Julia言語によるマルチプラットフォーム対応 分散混相流ソルバ LCS.jl の開発
Speaker: 富永 健斗(東京科学大学 大学院工学院 機械系 D1)
Date: 2026年6月17日(水) 11:00--12:00
Place: 東京理科大学 野田キャンパス 7407教室
概要を表示
近年,高性能計算分野 (high performance computing; HPC) では,CPUに加えてGPUを搭載したスーパーコンピュータが主流になりつつある. これに伴い,CPU環境を前提として最適化されてきたHPCコードを,GPU環境へ移植する必要性が高まっている. このような移植では,いまだ広く利用されるCPU環境への対応を維持しつつ,多様なベンダーのGPU環境にも対応できる性能可搬性が求められる. さらに,GPUの性能を引き出すため,メモリ階層や並列実行を考慮したアルゴリズムの再設計が必要となる. 性能可搬性と高性能を両立するHPCコード開発手法の確立は,依然として重要な課題である.
そこで,我々は,Julia言語と KernelAbstractions.jl を用いて,単一のソースコードをCPU/GPU上で実行可能なsingle-source,multi-platform designに基づく混相乱流計算ソルバーLagrangian Cloud Simulator in Julia (LCS.jl) を開発した. LCS.jl では,従来のCPU向け逐次粒子通信アルゴリズムを,prefix-scanに基づくGPU-nativeな並列アルゴリズムへと再設計した. これにより,粒子通信コストを全実行時間の約78%から約10%まで削減した. さらに LCS.jl は,Fortran実装と同等のCPU性能,および256 H100 GPUsまで85%以上のstrong scaling効率を達成した.GPU計算では,CPU計算に対して最大18.0倍の高速化を達成した.
本講演では,これらの学術的成果に加えて,LCS.jl の開発を通じて得られたJulia言語によるHPCコードの設計手法についても紹介する. Julia言語を用いることで,C/Fortranに匹敵する実行性能を目指しつつ,高水準な言語機能を活かした抽象化により,実行環境や機能の違いを局所化した拡張可能なコードを高い生産性で開発できる. さらに,ドキュメント生成,テスト,ベンチマークを開発過程に組み込むことで,HPCコードの堅牢性と保守性を高められる. これらを通じて,性能可搬性,高性能,高生産性を同時に追求するHPCコード開発手法について議論する.
参考文献
- Taketo Tominaga and Ryo Onishi, LCS.jl: A High-Performance, Multi-Platform Computational Model in Julia for Turbulent Particle-Laden Flows, arXiv:2604.11008 (2026).
- Taketo Tominaga and Ryo Onishi, Finite-Time Relaxation of Inertial Particle Clustering in Non-Equilibrium Turbulence, arXiv:2605.25539 (2026).
古典多体系における動的低ランク近似法
Speaker: 皆川 諒(京都大学 情報学研究科 M2)
Date: 2026年2月19日(木) 11:30--12:30
Place: 東京理科大学 野田キャンパス 7404教室
概要を表示
近年,非平衡定常状態だけでなく,非平衡多体系のダイナミクスの研究が盛んである. 特に,エンタングルメントエントロピーや相互情報量など,多体系の波動関数や確率分布の情報論的側面に関する研究が注目を集めている. しかし,波動関数や確率分布の自由度は系の大きさに対して指数的に増大するため,直接的なシミュレーションは難しい.
一方で,応用数学分野では時間発展方程式の動的低ランク近似法と呼ばれる時間発展方程式の近似解法の研究が最近,活発に行われており,新たな近似計算法として注目されているが,多体系への応用はほとんど行われていない.
本講演では,動的低ランク近似をテンソルネットワーク表現に組み込み,1 次元動的イジングモデル,及び1次元Contact Processに適用する事により,動的低ランク近似法の古典多体系に対する有効性の検証を行った結果を報告する.